top of page

​ある晴れた日のことでした

片瀬 一花】

由緒正しき退魔の名家・本家の血を引く一人娘。産まれたときから異界に来ることが決まっていた『生贄』でした。
代々お天道様に一番近い家として古い習わしが残っており、その最たるものが『生贄』。
数十年に一度神さまが表に上がってきたとき、本家から一人捧げねばなりません。
『生贄』となった捧げ者が何処へ行くのか、どうなるのか、誰も知りません。事が終われば大団円なのでしょう。

一花はお腹にいるときからずっと神様に呼ばれていたので、いつか自分が『生贄』になることも分かっていました。

十を過ぎた頃、お家の繁栄のために『星読み』と呼ばれる力を持つ家との縁を結ぼうとした両家同士は、

神に隠され消える予定の一花と、力を継いでいない子息との縁談を結ぶことで

関係だけを手に入れようとします。

最初から実らない話に、決められた相手。いつか来る”お別れ”。
それでも一花は、星読みの家の息子『マサさん』が大好きでした。
縁談が決まってからほんの数年の間でしたが、二人は確かな幸せを紡いでいきました。

ちょうど一花が十四歳の頃、神さまは久しぶりに表に上がってきます。
それは空が抜けるように晴れた春の日で、ひらひらと降りてきた花びらが縁側で休んでいるような穏やかさでした。
その日は『マサさん』と会う日でもありました。
『マサさん』が一花のために選んだ花のかんざしを渡すと、目の前で挿し笑って見せたのです。
それはまさに、一輪の花のようで。

「いってまいります」

その言葉を置いて、一花は振り返らずに部屋へ入って行きました。
桜が咲き誇る、ある晴れた日のことでした。

アンカー 1
bottom of page